空腹と薫り

大久保駅南口を出ると、日が落ち夜の装いを纏っていた。あまり見たことのない雰囲気の駅前で、高架下の出入り口なのだが、建物がかなり近くまで建っている。

待ち合わせの時間までは少しあるので、界隈を散策する。新宿の隣なのだか、降りたことのない場所なのでワク(ワクワクまではいかない)している。知らない場所は好きなのだが迷子にはなりたくないので基本、真っ直ぐ歩いていく。夕飯を食べるための待ち合わせなので、いつもは興味がある良い雰囲気のお店を何軒もスルーしなければならないのは痛いが、次回来た時に楽しもう。

しばらく歩くと知っている都会のビルや道路が見えてきた。高層ビルはあんなに威圧感でならなければならないのか、と思うくらいに偉そうにそこにある。振り返り見ても、出てきた路地に南口への誘導などなく、知らなければたどり着けないのではと思ってしまう。偉そうなビルには何の用事もないので一旦、雑踏の中に戻っていく。歩きながら、でかいのと威圧的なものはセットなのかと思ってみたが、肩幅ヒロシはでかいが、腰も低くあんまり威圧的ではないなと、関係のない事を考えたりもした。肩幅ヒロシに引っかかった方は、各々調べて見てください。

南口は高架下なので、右と左に出口が別れている。先ほどとは反対方向に、真っ直ぐすすむ。人びとが進む方向には、新大久保のコリアンタウンがあるのであろう。10mも歩かないくらいでそれがわかる、いや身体が感じている。前から来る大気全てがゴマ油でコーティングされている。通り行く人は皆普通に歩いている。僕だけなのか?こんなに暴力的なほどにゴマ油が襲ってきているのに。
ここで、少し前に戻るが「夕飯を食べるための待ち合わせなので」と書いた。そう!これからご飯を食べるために用意したボディは、過剰に反応していたのだ。僕には抗えない薫りが3つある。ゴマ油の匂い、醤油のこげる匂い、カレーの匂いだ。この薫りで造った手榴弾を投げ込めば、戦争も中断できるのではとおもうほどだ。
そんなゴマ油の大気をかき分け駅に戻り、待ち人と合流する。
本日の夕食は、混ぜそばだ。合流した知人の言葉であるが「大久保駅南口はこの混ぜそばを食べるためにある」と言う事だ。食べ終えた感じから混ぜそばと呼んだ方がいいと思う。油そばとか、汁なしの担々麺とか類似もあるが、油っぽくはないし、茹で上げた中華麺に調味液がかかっていて、色んなトッピングができる。なので、混ぜそばだと。
調味料を加えて、味を模索する。そのままでも十分なのだが、酢・胡椒・一味・かえし・マヨネーズ・魚粉・ラー油・海老油・ゴマ油・など少しずつ加えていく。
色んな味を楽しみ、最後の一口は……ゴマ油です。
初めての店で量的に少し物足りなかったので、次は大盛にしていきたいです。